石田衣良

ぼくが今の社会で息苦しく感じるのは、 過剰なまでに正義を求める人たちの存在だ。正直にいおう、悪はごく少数だし、最初から悪だとわかっているので、かんたんに避けられる。実際にはさして怖くない。 怖いのはいつの時代も正義で、とくになんらかの刺激でプライドを傷つけられた正しさだ。自分が正義のサイドにあると信じる人たちの執拗さと復讐ほど恐ろしいものはない。 考えてみると、次男が窃盗で起訴猶予になった司会者とか、暴力団関係者とのつきあいにより引退したコメディアンとか、夫がいない留守に別な男を自宅に連れこんだ女性タレントとか、「傷つけられた正義」によって裁かれた人たちが無数にいる。マスコミは集団リンチのように仕事を辞めるまでつつきまわす。 しかも、正義と嫉妬を基にしたセレクトなので、つぎに誰が狙われるのかわからない。おバカ画像の若者も、先にあげた3件の当事者も、“犯罪者”ではないのだ。まったく「正義すぎる人たち」は恐ろしい。